JGS 第34回日本緑内障学会

ご挨拶

第34回日本緑内障学会
緑内障の精密医療
~PRECISION MEDICINE~
開催にあたり

このたび、東京慈恵会医科大学が主管校を担当して、第34回 日本緑内障学会を2023年9月8日から10日までの3日間にわたり虎ノ門ヒルズフォーラムおよび東京慈恵会医科大学の講堂にて開催させて頂くこととなりました。私が学会長を務めさせて頂き、東京都眼科医会会長の福田敏雅先生に副会長をお願いいたしました。

本学会のテーマは「緑内障の精密医療~PRECISION MEDICINE~」とさせて頂きました。PRECISION MEDICINE(便宜的に“精密医療”と和訳します)は米国のオバマ元大統領が2015年の一般教書演説にて用いたことで一躍注目されましたが、一般には、がん治療における分子標的薬の使い分けをイメージされることが多いと思います。精密医療の啓発に伴い、がんは臓器ごと、個人ごとの違いが大きく、画一的な(one-size-fits-all型の)治療戦略でなく遺伝情報に基づいて分類する方が正確だという考え方が広まりました。しかし、がんに限らず、病気を細分化して治療する動きが急速に強まっています。そして近年、精密医療という用語はもう少し広い意味で使用されるようになってきています。すなわち、個人に注目して各々に最適な医療を行うことが字義通りの個別化医療だとすると、精密医療は、遺伝情報や生活環境、ライフスタイルの違いから特定の集団を層別(グループ)化して、集団ごとの治療法・予防法を提供するものであり、個別化医療に比べて費用対効果が優れるものと期待されています。

緑内障においては、長きにわたり、眼圧を中心に治療戦略が組み立てられてきました。しかし最近、最新の各種エビデンスをもとに、臨床症状や検査値、遺伝情報等を組み合わせて、患者を層別化した上で各層に合った最適な治療・予防を行う動きが始まりつつあります。また、緑内障の病態悪化を遅らせるだけでなく遺伝子治療による病態改善の研究も進められています。こうした緑内障診療の新たな概念が浸透するべく、本学会が、未来医療への扉を開けて前進する機会になればと願っております。

須田記念講演は、神戸大学の中村誠先生にお願いし、緑内障性視神経症の病態についてご講演頂くことになっています。招待講演には、遺伝子治療などで最先端の緑内障研究に取り組まれているStanford大学のJeffrey Goldberg先生にご登壇頂き、興味深い新しいお話をご講演頂けるものと期待しております。また特別講演では、国立国際医療研究センターメディカルゲノムセンター長の加藤規弘先生から、生活習慣病における精密医療の展望についてご講演頂くことになっています。

本学会の学会長企画として、萌芽的な緑内障研究をされている若手眼科医の先生方から演題を集めたコンペティションを企画しています。今後の緑内障学会を背負ってたつ次世代の先生方に各々の研究を積極的にアピールする機会を提供し、是非とも学会を盛り上げて頂きたいと願っております。またGlobal Symposiumという海外セッションも企画しました。そのテーマは"What's new in the world of glaucoma?" であり、世界各国で行われている最新の緑内障研究について、参加者の皆さんと情報共有したいと考えております。その他、基礎的研究から最新の治療法まで、現時点での知識をブラッシュアップできる一連のシンポジウムに加え、教育セミナーを、初級、中級、上級の3段階に分けて企画して、参加者の皆さんの、聴講されるコースを選択しやすくしました。特に初級コースに関しては、会期の一週間前までに事前収録をオンデマンド配信し、事前に聴講された後、本会に臨んで頂けるよう準備しております。専門学会であるがゆえにこれまで余り参加されなかった方々にも、学会前に予習をして頂く機会を設けることで学会参加の敷居を低くしたいと考えております。

超高齢社会が進む日本で、今や緑内障は眼科領域にとどまらず、がん・心血管病などの生活習慣病と並ぶ“コモンディジーズ”になろうとしています。今秋の感染状況は予測できませんが、ポストコロナ、ウィズコロナ時代に対応した様式で皆様をお迎えしたいと思っております。3日間で、最新版の緑内障学をアップデートしていただき、明日からの実臨床に活かせていただけると幸いです。今秋、学会場にて皆様とお会いできますことを楽しみにしております。

第34回日本緑内障学会 会長
東京慈恵会医科大学 眼科学講座 主任教授
中野 匡