論文紹介、ニュース

2022.08.05

【5】ACTIVE SEAL studyより

Early Clinical Outcomes of the Active Seal Technology of the AFX Endovascular Aortic Aneurysm
System With the VELA Cuff for Patients With a Conical Proximal Neck

Fujimura N et al. J Endovasc Ther. 2022 Jan 11:15266028211070971.
doi:10.1177/15266028211070971.

AFXステントグラフト(以下AFX)は、グラフトがステント骨格と両端でしか固定されておらず、血圧を受けることにより、グラフトが帆のように膨らみ、エンドリークを止めるActive Seal という特有の構造を有しています。このActive Sealが、逆漏斗型の中枢ネックに有効と言われておりましたが、今までエビデンスはありませんでした。その仮説を検証するために、今回われわれが実施したのがACTIVE SEAL(AFX in the Conical hosTIle neck for preVEntion and SEALing of type-1a endoleak )研究です。
2016年1月から2019年8月までに、逆漏斗型中枢ネック(15mm以内に10%以上大動脈径の拡大)をもつ腹部大動脈瘤で、AFXを用いて治療したものを対象とし、全国17施設から53例集まりました。そのCT画像をコアラボ解析し、純粋な逆漏斗型中枢ネックを持つ37例を抽出し、術前、術後1ヶ月、術後12ヶ月のCT画像を評価しました。その結果、術後12ヶ月の時点で、タイプ1aエンドリークおよびタイプ3エンドリークの発生率は0%で、瘤関連イベントとしては、タイプ1bエンドリークからの瘤径拡大1例のみで、良好な結果が得られました。懸念点としては、5mm以上のステントグラフトのずれ(migration)が2例で認められており、今後経過観察が必要と思われます。これから5年間、タイプ1aエンドリークの発生率や、Active Sealが中枢ネック拡張に与える影響などを観察し、また報告します。

2022.07.12

【4】Gore IBEに関する多施設J-Preserve研究

Outcomes of the Gore Excluder Iliac Branch Endoprosthesis for Japanese Patients With Aortoiliac Aneurysms: A Study Based on J-Preserve Registry.

Ogawa Y, et al.
J Endovasc Ther. 2022 Jul 11:15266028221109477.

Gore Excluder IBEは2017年9月に本邦へ導入され、今現在も本邦で使用可能な唯一の内腸骨動脈温存デバイスです。しかし、日本人は欧米人に比しCIAが細く短いとされ、Gore Excluder IBEの適応基準に合致するのは約30%と報告されています。さらに、通常EVARに比し技術的ハードルもやや上がることもあり、単一施設での経験数は限定的で、本邦での成績が不明であることが問題点でした。
本研究は、本邦におけるGore Excluder IBEの治療成績を明らかにすることを目的とした医師主導の後向き多施設共同研究です。2017年8月から2020年6月までに腹部大動脈-腸骨動脈瘤に対してIBEを用いてEVARを施行した13施設141症例(平均年齢76歳、男性108例)、両側性の10例を含むIBE 151留置例を集積し、技術的成功、合併症、生存率、瘤径変化および追加治療について評価しました。また、サブ解析として内腸骨動脈本幹留置群(132例)と内腸骨動脈分枝留置群(19例)間でのIBE関連の成績について比較検討しています。
IBE151留置例中、43%はIFU外項目を一つ以上満たしており、原因としてCIA起始部径(30.5%)が最も多く、続いてIIA径(11.9%)、大動脈-総腸骨動脈長(7.9%)でした。技術的成功率は96.7%と良好で、平均観察期間(635日)中に、瘤破裂および瘤関連死は認めていません。さらに、96%の患者で瘤径不変ないし縮小が得られています。サブ解析では、内腸骨動脈分枝留置群は本幹留置群に比し手術時間が長く、さらにブリッジとして約半数でViabahnやVBXの追加留置を必要としていますが、手技的成功率は同等で、さらに両群間でIBE関連合併症(2.3% vs 5.3%, p=0.86)および追加治療率(1.5% vs 5.3%, p=0.33)に有意差は見られませんでした。
Gore Excluder IBEは、半数弱がIFU外項目を有する日本人患者においても良好な中期成績が得られ、さらに内腸骨動脈分枝留置においても本幹留置と遜色なく、さらなる適応拡大が期待されます。

2022.01.19

【3】胸腹部大動脈瘤に対する自作枝付きステントグラフト

Physician-modified stent graft with inner branches for treating ruptured thoracoabdominal aortic aneurysm

Eur J Cardiothorac Surg. 2021 Dec 13;ezab543.
doi: 10.1093/ejcts/ezab543.Online ahead of print.

胸腹部大動脈瘤に対する標準的治療方法は人工血管置換術ですが、それなりの死亡率、合併症率を有します。またdebranching TEVARも有効な方法ですが、開腹手技を要し、手術侵襲をそこまで下げきれないという問題点もあります。この論文は胸腹部大動脈瘤に対する枝付きステントグラフトを、Main deviceの内腔にbranchを作るinner branchという方法で自作した論文です。
アイデアとしてはJEVTでMario D’Oria, Gustavo S. Oderichらがすでに報告しています。Inner branchにすることでouter branchに比べmain deviceの再収納を容易にし、またターゲットとする分枝血管へのカニュレーションスペースを広くすることができます。Bridge stentとのlandingも長くとれるというメリットもあります。現在欧米では既製品でもinner branchの製品が使用され始めているようです。
この論文ではMain bodyとしてRelayを使用しています。通常のfenestrationのみに比べ、内腔にbranchを装着させる分当然再収納は困難になるため、再収納のやりやすさからRelayが選択され、使用したデバイスサイズもstent graftに対してシースが大きいものを選んでいます。
作成方法(Fig1. A)ですが、Relayを体外で展開しfenestrationを作成、同部位にinner branchとして長さ20mmで切離したEndurant legを、5-0proleneで縫い付けています。本症例ではSMA用、右腎動脈用、左腎動脈用の三つのinner branchを作成しています。目印としてinner branchの出口にcoilをつけ、入り口にはEndurant legのoマーカーを用い、さらに前後のorientationのためにcoilでcheck markerを上下に二つ作成しております。また固定のためEndurant legとRelayのbodyを二針ほどproleneで縫合してあります。再収納はfenestrationのみのときと同じで、血管テープやネラトンなどを利用しsoftシース、それからhardシースへと収納していきます(Fig1. B/C)。
手術手技(Fig2)ですが、加工したRelayを大動脈内に挿入後、SMA用のinner branchが展開される部位まで展開し、その後左腋窩動脈からinner branch→SMAとカニュレーションし、VBXでbridgeさせます。同様の手技を右腎動脈、左腎動脈にも行い完成させます。
枝付きデバイスを当分使用できない本邦において、人工血管置換術をできない患者への選択肢の一つになる可能性があります。

2021.06.28

【2】傍腎動脈瘤、胸腹部瘤に対する良好な枝付き・窓付きステントグラフトの中期成績

Midterm outcomes of a prospective, non-randomized study to evaluate endovascular repair of complex aortic aneurysms using fenestrated-branched endografts

Annals of Surgery
DOI: 10.1097/SLA.0000000000004982
Oderich GS et al.

傍腎動脈瘤、胸腹部瘤に対するfenestrated/branchedステントグラフトを用いたEVARの成績について、OderichらによってAnn Surgに報告された。後ろ向き単施設研究で、430名(133傍腎動脈瘤、297胸腹部瘤)の患者が評価された。全例COOK社のデバイスで、custom madeが89%、t-branchが11%に使用された。周術期死亡率は0.9%。周術期合併症は透析導入2%、脊髄虚血2%、脳梗塞2%だった。平均26ヶ月の経過観察でSMAステント閉塞などの瘤関連死亡が3例 (0.7%)に認められた。5年間での全死亡回避、瘤関連死亡回避率、標的分枝血管開存率はそれぞれ57%、98%、94% だった。一例のtype IIIbエンドリークによる瘤破裂が見られたが、血管内治療で対処され、救命された。
以上のように傍腎動脈瘤、胸腹部瘤に対するFB-EVARの良好な中期成績が報告されている。驚くべきは血管内治療の手技時間が153分と非常に早いこと、また造影剤使用量も150ccほどであった。ただ700例以上の経験を有するhigh volume centerでの経験であり、手技が複雑になる程、効率性や治療成績向上の観点から患者集約化の方向に進んでいくことが予想される。長区域のステントグラフト留置では、常に脊髄虚血が問題となりうるが、本研究では、予想通り脊髄虚血に関してはCrawford I-IIIの胸腹部瘤に多かった。予防策としてはstaged-procedure、血圧維持、large sheathをなるべく速やかに抜去する、術中モニタリングをルーティンに行い、症状が出ればspinal drainageを挿入しているようだ。2015年にMayo Clinicを訪問した際に、spinal drainageについて議論があり、日本ではルーティンに入れないと言ったら、絶対にルーティンに入れなきゃダメで、緊急でも終わり次第入れるべきと言っていたが、やはり同手技による合併症を経験され、ルーティンでは挿入しなくなったようだ。

2021.06.08

【1】CUCUMBER研究より

Clinical Impact of Stent Graft Thrombosis in Femoropopliteal Arterial Lesions

Ichihashi S et al. J Am Coll Cardiol Intv 2021;14:1137-47)

大腿膝窩動脈での長区間閉塞病変にはステントグラフトという印象をお持ちかと思います。
実際にRCTや多くの研究で、complexな病変に良好な成績を叩き出しています。
ただ多くの先生が危惧されるのは、ステントグラフトの血栓症です。
CUCUMBER研究はステントグラフト血栓症の予後を評価するために実施された多施設後ろ向き研究です。
1215肢に留置されたステントグラフトのうち、159肢でステントグラフト血栓症が見られました。
そのうち21名(13%)が血栓閉塞した際に急性虚血症状(放置すると下肢切断のリスクがある状態)が見られました。
82%の患者さんに再血行再建が行われましたが、バイパス手術、血栓除去(いわゆるフォガティー)、血栓溶解などのEVTのうち、いずれの治療法を選択しても、再血行再建後の一年開存率は50%程度と、不十分な結果でした。
どういった病変がステントグラフト血栓症再治療後の再々閉塞リスクになるか分析したところ、ステントグラフト初回留置時の重症虚血肢、血栓症発症時の急性虚血症状、小さなステントグラフト径が閉塞予測因子としてあがりました。

ステントグラフトは非常に良いデバイスですが、やはり血栓閉塞時のインパクトは大きいと言わざるを得ません。
大きな血管、健常部へのランディング、十分なrunoff、抗血小板療法など、最適なコンディションで使用したいですね。